2024年に読んだ本 (その3・その他の書籍、ムック、コミック)
2024年に読んだ分岐、新書以外の諸々についても記録しておく。
まずは書籍から。
帯には『一〇七歳 世界的美術家が残した「人生のことば」』とある通り、本人からのインタビューを、その生い立ちから芸術家、人生における転機、そして現在までを時系列でまとめている部分が半分、残りの半分は彼女のことばを1ページに1つずつ取り上げるという構成になっている。
恵まれた環境に生まれ育ったことは知っていたが、逆にいうとその環境にあって、芸術に専心することができ、それを成就されたというのは、ある意味奇跡的な人物だということを改めて感じた。そして、それを成り立たせている彼女の考え方を知るのには、よくまとまっている一冊のように思う。
よく知らなかった2つの巨大プロジェクトの勃興と消長。
民間ラジオ放送開始時に始まる官民 (NHK対民放) の対立、主導権争いに始まる放送塔を中心とした鍔迫り合い。
特に日本テレビの正力松太郎とNHKの前田義徳を2つの軸とした物語が彼らの死後まで遺恨を引き摺っていたというのに驚いた。
如何にも昭和時代の話ということも出来るが、単に組織的な対立だけでは、これだけの話にはならないだろう。やはり政治経済、メディアの世界に巨人、というか怪人が君臨していたからこそのことではないだろうか。
前作が面白かったので、迷わず手に取った一冊。
取り上げている土地(都市)によって、内容に差があったり、著者の生い立ち、生活に密着した内容が多くなっている点は好みが分かれるカモしれない。
寡聞にして知らなかった、というか考えることもなかった力道山未亡人の物語。
負債を含めて遺産を引き継いだのだから当然という見方もあろうが、プロレスに関わり続けているというのが興味深い。
本筋とは別だが、未亡人と日本航空同期入社で公私ともに交流のあった安倍譲二氏の人となりに触れられている部分も面白かった。
数年前から読んでいるアステイオンが100号を迎えた。
サントリーというパトロンがあるとはいえ、100号の中でも触れられている通り、このような論壇誌の発行を継続しているのには頭が下がる。
このような記念号はともすれば祝賀ムードになりがちだが、歴史を単に振り返るだけではなく、変わったことと変わらないことを考察する各記事は、同誌の読者以外にも読み物として読む価値がありそうだ。
片山杜秀、三浦雅士、田所昌幸三氏による記念号らしい特別座談会では、サントリーホールを中心にした劇場論や、それを取り巻く状況に対する憂いが表明されており、昨今の文化的貧困を改めて感じさせられた気も。
いつものユリイカとは少々変わった緩い内容の記事もあったが、散歩とは何かという学術的な解説もあり。
この時期にクレージー特集を組んだ理由はわからないが、音楽芸能の点から再評論するという点でまとまっているので、興味のある向きは一読の価値有り。
クレイジーキャッツを成り立たせていた各メンバーの音楽的な資質や、楽曲の解説は勿論だが、舞台公演の記録を辿った評論はこれまであまり見た覚えがなかったので新鮮であった。
ともすれば、TVの大衆化と共に語られる彼らの活動だが、舞台あってのTVという面もあったということも気付かされた。
メンズクラブ初代編集長のインタビュー。
個人的に興味が薄い分野の話ではあるが、その後のユースカルチャー、出版界に与えた影響の大きさに驚く。
またよく語られるVANの乱脈経営についても、外側の当事者から見た状況は興味深いものがあった。
出版時に見落としていたものを改めて落掌。
特に新しいものがあるわけではないが、ファンとしてはつい手に取ってしまう。
新しいものはないといいつつ、本書のトピックは最後の仕事となった「世界文学全集」の一部が掲載されていることだろう。
これが完結していたら、また別の代表作となったのだろう。
艦艇というハードウェアと、それにまつわるアレコレを中心に、国際的な安全保障の状況を読み解く時評集。
改めて日本を取り巻く状況の面倒臭さを思い知らされる。しかも、それが一朝一夕に解決できないというのも悩ましい。
11作目にして、初めてカバーが墜落機。レーサーとして命を受けたものの、戦闘機としての役目も果たさざるを得なくなったコードロンの悲哀は色々と考えさせられる。
その他にも、仲間を守るために生まれた派生型なのに、仲間に置いていかれる鈍足になってしまったYB-40/41とか、いつも通りの下手な考え休むに似たりというか、面白うてやがて悲しき物語が満載であります。
世界の傑作機最新刊。これでハリアーシリーズの改訂は完結。
アンコール版を除けば、昨年の新刊はこれだけだったのが気になる。
まだF-4ファントムシリーズの改訂版はF-4EJが残っていたりするので、隔月とまでは田舎なくとも、続刊をお願いしたいところ。
そして、コミック。
鶴田謙二の新刊が、ここのところ毎年出ている。
10年前には考えられなかった状況に驚いている向きも多いのではないか。
旧作の設定を引き継いでいるというか、鶴田式スターシステムと、この作家らしい外連満載なので、ご新規さんには分かり難いかもしれない。それでも敢えてそれを詳しく説明しないのも鶴田謙二らしいともいえる。
勿論、ファンにとってはその判りにくさも魅力なので、このまま突き進んでいただきたい。
最初はどうなることかと心配になった『スピナマラダ』の『リブート』作品『ドッグスレッド』。
順調に連載、単行本化も進んでおり、昨年中に4巻がリリースされたのはご同慶の至り。
1巻から『スピナマラダ』と見比べているが、
少々拙速、詰め込み過ぎ感があった『旧作』に対し、『新作』は整理、省略されている箇所もあり、物語に入り易くなっている気がする。
やはり、ここは間に大ヒット作『ゴールデンカムイ』を挟んで自信を深めた著者の成長ではなかろうか。
第1巻では旧作をトレースし直すだけかのようにも見えたが、2巻で登場する八戸の面々には震災のエピソードも盛り込まれる等、新作ならではの仕掛けも出て来ているので、今後も楽しみに追っていきたいと思う。
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