英国オースチンとの提携によるノックダウン生産で海外の先進技術を吸収しつつあった日産が、将来有望な市場分野である自家用車市場をにらんで、戦後はじめて自社独自で開発した自家用車が「ダットサン110型」でした。
110型は1954年より生産を開始、発売後、そのシンプルかつ耐久性優れ比較的低廉な価格が人気を呼び、日産の乗用車の歴史を拓く先駆者となりました。
展示されているドローイングの112型は、同車のマイナーチェンジ版で、1955年の「第2回毎日産業デザイン賞」には、トヨタクラウンと共にノミネートされ、最も「国民車」の規格に近いと評価された同車が入賞を果たしています。
110型の開発にあたっては、コストダウンのため当時のダットサントラックとフロント側を共用する等、種々の難問がありましたが、そんな困難な状況下でスタイルをまとめたのが、戦後日本の工業デザイナーの草分けの一人である佐藤章蔵でした。
氏は東京大学機械工学科を卒業した技術者でありながら、絵画も本格的に学んだという異色の存在で、デザイナー軽視の風潮があった技術者からも敬意を払われ、その後の日産自動車造形課の礎を築かれました。
氏は当時既に主流となっていたアメリカ式のハイライトを強調するドローイングの手法には目もくれず、水彩画でスタイル画を描くという独自の技法を確立していたことでも知られます。
この一枚にも彼の得意とした技法がよく現れていると思います。
(注)
このドローイングが、佐藤氏のものであるかどうかの確証は取れていません。
しかし、過去に発表されている氏の110型、112型のドローイングにタッチが酷似していること、ご本人のものでないとしても、そのタッチから氏の影響下で描かれたものであるのは間違いないと判断し、氏の技法についてご紹介した次第です。